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「ただいまー」
「おかえり~……」
程なくして廊下からドアを潜って来た人と、冷蔵庫から取り出したキャベツとしめじを両手に持ったままの姿勢で目が合ってしまう。
どう見ても夕食の支度の整っていないこの有様に、言い逃れも出来まい。
「……ご飯、出来てません……駄目嫁ですいません……」
気まずく目線を泳がせながら口角を引き攣らせるも、成くんは屈託ない笑顔を向けてくれるのだった。
「俺は凛ちゃんのタイミングで平気。待ってる」
なんて眩しい微笑みなんだ……思わず目元を手の甲で遮りたい程に。
眼鏡の奥の目を細め、わたしに真っ直ぐ視線を注ぐこの出来た旦那さんに申し訳なく、やる気スイッチが入った。
「すぐ用意する! 今日は、味付切り身がある~」
魚焼きグリルに切身を乗せ、2品目に野菜を炒め合わせながらも、先程のビーズの出来映えが脳裏に思い起こされる。
醒めやらぬ興奮を聞いて欲しくて、口を突いて出てしまう。
「ねぇねぇ、今日のビーズ刺繍、可愛く出来たんだー」
「これ? 良いじゃない」
座椅子に腰掛けお菓子を頬張る顔が、ローテーブルに置いてあるそれを覗き込んだ。
「こないだ沙知にあげたやつも好評だったし……もしかして……売れないかなぁ、なんて……」
フライパンの中をかき混ぜながら、照れくさく頬を僅かに掻いた。
「あぁ、最近流行ってるんだよね? 手作りのアクセサリーのフリマアプリとか。やってみたら」
特に真剣に考えてもいない返事だとはわかっているけれど、取り立てて否定することもない。
成くんの言葉に、自然と笑みが零れた。
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