半信半疑物語 或いはウィルス進化論

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人類は夢と呼ばれる技術を後少しで手にする所まで来ていた。 私はそんな過渡期だからこそ、奇跡的に生き永らえたのだろう。 生物の体内に起こる、僅かな電位差の利用を可能にしたナノマシンの登場と医療の発展。 アルツハイマーも、筋ジストロフィーも治療可能になる。 欠けた遺伝子の代わりを、機能の代わりを担ってくれると期待された超技術。 最もその頃は理論上の存在から現実のモノに成り掛けたに過ぎず、動物実験もやっと認可が下りたばかりの代物だった。 今となっては、運が良かったとも悪かったとも言えるタイミングに過ぎない。 かなりの高齢になってから、私と言う一子をもうけた父母の愛情も有っただろう。 我が子が不慮の事故に遭い、死の瀬戸際に追い込まれていると知った瞬間、狂気じみた父の行動に因って私の命は救われた。 そう、やっと動物実験の認可が下りたナノマシンを使用したのだ。 ぐずぐずに崩れた前頭葉を始めとする脳の修復の為、轢き潰された手足の修復の為、我が子の命を繋ぐ為に。 人道に反するだの、親子の愛が救った命だのと一時期は騒がれもしたが、今となっては知る人も少ない出来事だ。 プライバシーを叫びからしたのもあるが、動物実験を飛び越して人間での使用に問題が無いと私の身体で証明されたナノマシンが、広く人々の間に行き渡った為でもある。 人類は総じて健康になり、若々しさを保ったまま長い人生を終える時代。 皮肉にもおまけの様に、少子高齢化の問題は解消された。 歪んだ形だと叫ぶ輩もいるが、脊髄の損傷を補い、不随になっていた身体の各部を元通りに動かす者が身内や知り合いに現れれば声高に叫び続けるにも消極的になって行く。 最も知的な活動さえAIに取って変わられる時代だ。 グレイグー問題は未だに取り沙汰されるが、それは机上の空論だと常に一笑に伏される。
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