半信半疑物語 或いはウィルス進化論

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ナノマシンの実用化に当たり、身体の細部に渡ってまで細かな機械を、つまりは大量の異物を体内に入れる行為は人々の恐怖を煽った。 義手や義足の技術が発達し、使用者の思考を読み取って自在に動くモノが現れていたのも有るだろう。 当然の顔をして持ち上がったのがグレイグー問題だ。 簡単かつ乱暴に説明するなら、暴走したナノマシンに世界が何だか解らない灰色の塊に作り変えられてしまうのではないかと提唱された問題である。 手当たり次第に物質を取り込み、同じ壊れたナノマシンを作る事が起こり得るのではとされたが、今では無機物が有機物をどうやって機械にするのだとか、元素変換を可能にでもしない限り問題は起こらないとされている。 それに今実用化されているナノマシンは、与えられた機能しか持ち合わせない。壊れた物は透析で排出するしかなく患者の負担だ。自らのコピーを作り出す、複雑な機能までは持ち合わせない。 使用者の死と共に機械も役目を終えて滅ぶし、よしんば暴走が起こったとしても犠牲者は体内で機械の暴走が起こった不幸な人、一人に終わると。 それでも世間の目には冷ややかなものが含まれ、ナノマシン技術を享受した人には通常の人と同じ生活が送れる光の部分と、見た目が普通と変わらないからこそ得体が知れないと恐れられる陰の部分が有った。 本来なら莫大な金銭が絡む技術には保険が適応されて安価に享受出来る代わりに、根強く人体実験に使われているのだとの都市伝説も囁かれた。 有り得ないと証明されたのに、ナノマシンの使用者は最早本人では無いと密かに忌み嫌われ、消極的ながらも差別が社会に蔓延し始めていた。 多分、本能的な畏れなのだろう。 人の皮一枚の下に、他人に因って作られた目に見えぬモノが蠢くのが怖かったのだ。
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