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「ねえ君は、サイボーグみたいなモノだよね。機械と人の融合したさ」
好奇心よりも自分の出世の為だと、下心丸出しに質問して来たレポーターの顔は今も思い出せる。
未だ小学生の私にアニメ等で有名な名称を使い、君はヒーローだと錯覚させて、その実、期待通りの言葉を引き出そうとする意識が簡単に汲み取れる面構えだった。
ああした輩は未だに居るなと思う。
現にこの研究所への勤務が決まった際も、私の経歴を何処から嗅ぎ付けたのか無遠慮な言葉をぶつける輩もいた。
「君のナノマシンは試作品だろ」
この頃には下手に言葉は選ばず、単純な台詞を返す事にしていた。
「そうだよ」
「見せてくれよ」
「自己増殖はしないんだ。命を護ってくれている機械を減らす訳には行かないな。私のナノマシンには替わりが無いからね」
そう告げれば大抵の人は、ナノマシンが生命を維持する機械であると思い出し、余計な事は言わなくなる。
しかし奇妙なものだ。
ナノマシンがウィルスの様だと思う頃から、私はウィルスに興味を抱き、何時しかその研究へと踏み出していた。父親と同じで小さな物が好きなのかしらと母は笑っていたが、果たしてそうなのだろうか。
顕微鏡下で見る微小なモノの世界は面白い。
単細胞生物は、一つの細胞が一つの命なのだから誠に不思議だ。
人間は六十兆の細胞からなる生命で、一度分化した細胞は他の細胞になり得ない。全能性を持つ細胞は分化の初期に決まり限られる。ナノマシンと同じ様に。
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