半信半疑物語 或いはウィルス進化論

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「新しい世代のナノマシンが誕生したらしいな」 眉間を揉みほぐしていると、同僚が珈琲を両手に寄って来た。 「へえ、今は何世代目だ」 「唯一のゼロ世代の癖に興味薄いな。自己増殖性より修復機能だな。それを与えて、患者の定期的な投与への負担を減らそうって考えを進めたタイプだ。8世代目になるよ」 突き付けられたカップを、会釈での感謝の念を示しながら受け取る。 「サイズが、また大きくならないか」 見分けの問題はどうするのだろうと思う。壊れたナノマシンを修復するナノマシンは、以前から開発出来ないかと取り沙汰されているが、未だ技術的に不可能では無かったか。 「そこなのだが、壊れたナノマシンの修復と増殖はもう少し大きな機械を人体に入れて、そいつでやるそうだよ。サイズ的にはもうナノマシンとは言えないな」 手にしたカップに口を付けると、待っている私に向けて言葉を続ける。 「サイズは鶏卵程で、対応出来るのは最新の7世代のみらしいな」 「7世代は一番大きいからか。単純化とスリム化を目指した4世代の倍はあるだろう」 チラリと顕微鏡に目をやる。 ウィルスを遺伝子の運び屋として使用する技術は昔からあるが、任意の場所にピンポイントで運ぶまでには至っていない。 それが出来ればナノマシンは必要なくなるのにと、機械を使用する事への抵抗から遺伝子や治療薬の運び屋として、ウィルスや細菌の探索と開発は続けられている。 だがそれらを知る程に、機械と生命、生物と生物では無いモノの境界は私の中で曖昧になって行く。全て同じではないかとの妄想にも囚われる。 使用するモノは違うが目的も機能も同じなのだ。機械を恐れるのは何故なのか。そしてこれらの問題を考える度に私には別の不安も付きまとう。 脳の一部さえナノマシンに置き換えた私は、事故以前の私と同じなのだろうかと。
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