半信半疑物語 或いはウィルス進化論

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「AIの判断で、猿での実験はもう済んで、人体での使用に踏み切ったらしいぞ」 性急な気もするが、人工知能の計算は人より遥かに速いし正確だ。 ただこの時は、ゼロ世代の私にはどちらにしろ利用出来ない技術だとしか思えなかった。 人工透析に因る定期的なナノマシンの除去と補充が減れば、より健康で自由な生活を患者は手に入れられるから朗報ではあろうが、第1世代よりも前の型を持つ私には応用は利かないだろう。 奇跡の成功例ではあるが、ただ一人の為に時間と労力が割かれる事は無いと。 五年ほど前の話だ。 そして今、私は進退極まる状況に陥っている。 「グレイグーが本当に起こるなんて」 「卵の誤作動が始まりだって」 卵とは五年前に開発され、実用化の始まったナノマシンの修復と増産の機能を持つ機械の通称だ。患者は時折、材料となるサプリメントを飲むだけで体内のナノマシンの数を維持する様になったのだ。 透析に割く時間が減り、自由な時間が増えた事は歓迎されて大きく報道もされていた。 「どういう事だよ。元素変換でも出来ない限り、グレイグーは起こらないのが通説じゃなかったのか」 「卵は仕事をする為の熱量を、人体の細胞と同じ回路から得るシステムを採用している。人体を燃料として、周りの金属やプラスチックを材料に喰い潰しながら増えているらしいぞ」 「無制限に増え続けるの」 金切り声が上がったのはその時だった。 不安と恐怖を増大させる叫びは、冷静な判断で逃げ延びた人達の間に憎悪を撒き散らす。 「こいつナノマシンの保持者よ」 一斉に集まった視線は、同じ人間で有る筈のモノを異物と判断していた。
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