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不安、怯え、憎悪。
既に、人を見る目ではなかった。
人の形をした、殺人鬼か化け物を見る視線。
「こ、殺せえっ」
吃り気味の、つっかえた言葉が吐き出された途端、私は自分の運命を呪った。
一時は父母の愛が救った奇跡の命と言われ。
多くの人に、自由を与えるきっかけになった前例としての肉体。
憎しみを向けるのは、得体の知れないモノを体内に潜めるからか。正しい手段を踏まなかったが故の、慎重さに欠けた判断への潜在的な恐怖なのか。
「待ってくれっ」
思わず後退った私の前に、同僚が入り込んだ。
「俺達は、コイツの判断のお陰でここに逃げ延びられたんだろう」
初見で私にナノマシンを見せてくれと告げた無神経さはなかった。
今ではその無遠慮に思えた言葉が、ただの好奇心だったと理解している。ゼロ世代のナノマシンに興味があっただけなのだ。
「コイツは卵だって持っていない」
「そいつが、僕等をここに招き寄せた可能性も有るよね」
無茶苦茶な理屈だったが、冷静さを欠いている大半の者には効く言葉だった。
包囲網がジリジリと狭まる中で、私は高層ビルの窓から眼下の光景を目にする。
不定形の不気味な波がうねり、立ちすくむ人々を飲み込み、周りの使える物を同じ微細な機械へと作り変え増殖しながら侵攻する光景は、警鐘として取り沙汰されたグレイグーその物だ。
一つの卵だけではなく、ある程度の時間を経過した卵の連続的な誤作動。
仕組まれていたとも見えるが、きっと違うだろう。
見落としていた何かがある筈だ。
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