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冬の夜の訪れは早い。
完全に日が落ちる前に、柊平と夜魅は撫で斬りのある北棟にきていた。
「紅い漆に金の月…。」
広い床に点々と積まれている大小の箱を見て歩く。
建物の雰囲気が独特で、あまり長居をするのを避けてきたため、じっくり中を見るのはこれが初めてだ。
この建物は、他の建物と違って廊下や縁側はない。
窓は柊平の頭より高い位置に、小さな障子がはめられた風流な明かりとりがいくつか。
外から見えないようになっている。
柊平は直感的にそう感じていた。
民家の部屋というよりは、道場か蔵ような作りだと思う。
「柊平、灯りつけようか?」
青く沈んでいく室内に、夜魅の声が少し離れた場所から響く。
「頼むよ。」
柊平は手元のスマートフォンのライトを消し夜魅の声に応えた。
ほどなくして、篝火が二つ灯る。
オレンジ色の光に、高い天井まで黒猫の影が大きく伸びた。
柊平は、思いの外多い箱の山を根気よく確認していく。
壁際の雑多に積まれた山の中に、それらしい箱を見つける頃には、中庭の池に月が浮かんでいた。
「夜魅。」
柊平の声に、音もたてず夜魅が駆け寄る。
「紅い漆だね。」
柊平が山を崩さないように引き抜いたその綺麗な箱の表面で、金箔の月がキラリと篝火を反射した。
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