12/28
前へ
/30ページ
次へ
「こんばんは。」 つけっぱなしの店の明かりの向こう。 磨りガラスごしに、人影と獣の影が映る。 柊平は持ってきた文箱をコタツの上に置き、立て付けの悪い戸を開けた。 「何しにきたのさ。今日は予約はないだろ?」 開口一番悪態をついたのは夜魅だ。 「相変わらず態度の悪い化け猫やな。」 コマも負けず劣らずのしかめっ面で悪態をつく。 相変わらず仲が悪い。 すりガラスに映っていたのは、五百蔵悠真と白犬のコマだ。 「何か緊急か?」 悠真とコマの方から訪ねてくるのは、百鬼夜行路への案内が必要な妖怪がいる時が主になる。 だが、それはいつも夜魅を通して「予約」という形がとられることになっているらしい。 しかし、今日はその予定がないと夜魅が言っている。 「緊急ではありませんが、代理で来ました。」 答えた悠真の背後で、冬の夜風がザアッと音を立てる。 北棟での探し物せいで柊平の体は冷えきっているが、それでも暗い夜風に余計な寒さを覚えた。 「入れるか?」 百鬼の家は、撫で斬りと鏡子の作る境界で入るものを制限する。 「悠真は人間だから心配ないよ。」 「コマは?」 「先代の時はなんともなかったけどな。」 「なら、冷えるから中へ。」 柊平は、悠真とコマを招き入れると、古い鍵をキュルキュルと回して閉めた。 パリパリッ。 パシッ! ハッとして振り返ると、コマが座敷に上がれないでいる。 「夜魅。」 タヌキの時は、座敷に上がれなかったがさっきのような接触音もなかった。 「コマは…、こんなだけど結構力の強い奴だからね。」 「こんなってなんやねん。褒めてんのか、けなしてんのかどっちや。」 先代、つまり壮大朗の代では普通の客だった者が座敷に上がれない。 百鬼夜行路を通る予定のないものであってもだ。 「柊平さん?」 憮然とするコマを座敷の上がり口で宥めながら、悠真が店の戸口に立ったままの柊平を見上げる。 「コマ、悪いな。今日はそこで勘弁してくれるか。」 柊平はコマのそばで片膝を付き、少し硬い毛並みを撫でて言う。 「今回だけやで、百鬼の若様。」 すまなそうな柊平に、コマは「悠真の用事もあるしな」と付け加えて、主のそばに控えるように店の土間にスッと座った。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加