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「柊平が出来ないなら、やらないって選択肢もあるよ。」
静かな声で夜魅が言った。
「おい。」
コマが声をあげたが、悠真は人差し指を口元に立てて静かにするようにいう。
「やらなかったら、どうなる?」
柊平がそう言った瞬間、視線を感じて店の方を振り返る。
冷たい風が吹いただけで、こんな夜中に人の姿はない。
「木は伐られておしまい。運悪く伐る役目になった人間が道連れかな。」
明日の天気の話でもするかのように、夜魅は言った。
椿の木から距離をとったのは、この話をするためかと、さらに少し後ろで悠真は思う。
自分は、どちらかといえば縁を"保つ"ような役目が多い。
だが、百鬼は"切る"ことが多いだろう。
どちらが"是"で、どちらが"否"という単純な話ではない。
ただ、"断つ"役目は、思いのほか重いものだろうと悠真は思う。
しかも、今回は妖怪というよりは精霊に近い。
「やるよ。」
ふいに、冷えた夜の空気に、柊平の短い声と白い息が流れた。
少しの沈黙が、じわりと広がる。
「悠真、その、厄?、の溜まり場にしない方法はあるのか?」
振り返った柊平の言葉に、悠真はしばし思案を巡らせる。
「一晩、時間を貰えますか?」
"できる"と即答しないのは、悠真らしいと夜魅は思う。
「なら、明日のこの時間に決行で。」
柊平は言いながら夜魅を振り返る。
「いいんじゃない?人目にもつきにくいだろうし。」
化け猫の軽い返事で、予備日の無い大仕事の決行は決まった。
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