19/28
前へ
/30ページ
次へ
「そのまま行くの?」 「染まらないんだ。仕方ないだろ。」 柊平の傍らに置いている撫で斬りには、白く艶めく下緒が結ばれている。 今朝から色々試してはみたが、文箱に納められていた紐に色を付けることは出来なかった。 柊平は中庭に面した雪見障子を開け、道を作る。 日は沈み、冷たく澄んだ空に薄い月が浮かぶ。 庭の池には、いつもと変わりなく百鬼夜行路の光が洩れ揺れる。 「ねぇ、柊平。」 コタツの上に、今日使う提灯と火種を取り出したところで、一連の様子を見ていた夜魅が声をかけた。 四畳半にある古いタンスの前で、1番下の引き出しを引っ掻く。 「なんだ?寒いのは我慢しろよ。」 「違うよ!ここ、この引き出し開けて。」 それは普段、壮大朗が使っている年期の入ったタンスだ。 とはいっても、必要は物は病院に持って行ったきりのため、店を預かってから開けたことはない。 「なんで今なんだよ。」 柊平はため息をつきながらも、滑りの悪くなったタンスの引き出しを開けてやる。 すると夜魅は、引き出しの中から、張りのある和紙の包みを引っ張り出してきた。 和紙には、控えめに薄桃色の花びらが舞い、端を小さな蝶結びが留めている。 夜魅は、その小さな蝶結びの端を咥えて器用にほどくと、いつものグレーのパーカーを羽織った柊平を見上げた。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加