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「そのまま行くの?」
「染まらないんだ。仕方ないだろ。」
柊平の傍らに置いている撫で斬りには、白く艶めく下緒が結ばれている。
今朝から色々試してはみたが、文箱に納められていた紐に色を付けることは出来なかった。
柊平は中庭に面した雪見障子を開け、道を作る。
日は沈み、冷たく澄んだ空に薄い月が浮かぶ。
庭の池には、いつもと変わりなく百鬼夜行路の光が洩れ揺れる。
「ねぇ、柊平。」
コタツの上に、今日使う提灯と火種を取り出したところで、一連の様子を見ていた夜魅が声をかけた。
四畳半にある古いタンスの前で、1番下の引き出しを引っ掻く。
「なんだ?寒いのは我慢しろよ。」
「違うよ!ここ、この引き出し開けて。」
それは普段、壮大朗が使っている年期の入ったタンスだ。
とはいっても、必要は物は病院に持って行ったきりのため、店を預かってから開けたことはない。
「なんで今なんだよ。」
柊平はため息をつきながらも、滑りの悪くなったタンスの引き出しを開けてやる。
すると夜魅は、引き出しの中から、張りのある和紙の包みを引っ張り出してきた。
和紙には、控えめに薄桃色の花びらが舞い、端を小さな蝶結びが留めている。
夜魅は、その小さな蝶結びの端を咥えて器用にほどくと、いつものグレーのパーカーを羽織った柊平を見上げた。
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