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「八坂婦人は、今日の夕方に家を出たそうです。」 悠真の言葉に、柊平は頷く。 見送りをするほど親しくはない。 ただ、引っ越しのあわただしい声を、少し複雑な思いで店の中で聞いていた。 「先に言っとくと、彼岸花の時みたいにすんなりはいかないかもしれない。」 ハッキリとした声で柊平が言う。 「刀の下緒が変わったからですか?」 柊平が腰に差した撫で斬りの下緒は、暗い夜道にあっても、わずかな月明かりをチラチラと白く反射している。 「たぶん全部そのせいなんだけど…。」 柊平は、そこで言葉をきり、悠真とその側に控えるコマを見る。 夜魅は提灯を咥えているため喋らないが、ちらりと百鬼家の方を視線で示した。 "この刀には、何もいないのか。" その明確な答えを、誰からも聞けてはいない。 ただ、椿が怖いものが柊平と一緒にいたと言ったこと。 "やらないという選択肢もある" と夜魅が言った時に感じた一瞬の気配。 それは、子供の頃から感じていた北棟からの雰囲気に似ていた。 今でこそ分かることだが、それは撫で斬りの気配だ。 それが、"刀"以外からも感じられるということの意味が、壮大朗の言葉と重なる。 「まぁ、椿を切り離した後のことはボクらに任せとき。な。悠真。」 「うん、まぁ。柊平さんは、彼女を無事に百鬼夜行路へ通してあげてください。」 約束の時刻。 椿の木の少女が、八坂家の門扉の前に姿を現す。 柊平は、コマと悠真、そして、足元の夜魅に頷いた。
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