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「我の見立てに間違いはなかったな。」 金色の瞳が、暗い夜空の三日月と同じように細くなる。 「お前は何だ。」 刀を向けても顔色ひとつ変えず嗤っている。 「だが、背を向けるべきではない。五百蔵の小僧、ぬかるでないぞ。」 柊平の問いには答えず、金色の瞳が鋭く尖りそう言った。 柊平は、振り返るのは間に合わなかった。 後ろから伸びてきた白く華奢な手が、あっと言う間もなく柊平の手首を掴む。 先ほどまで柊平の腕を掴んでいた大きな手よりも、更に強い力で撫で斬りごと引き倒された。 「離れないわ。」 目の前で、椿の花を染め抜いた振り袖の裾が揺れる。 頭の上から聞こえているのは、間違いなく椿の木の少女の声。 しかし、その声は先ほどまでの儚げな声と違い、ひどく哀しげだった。 昨日も今日も、ずっとその場から動かなかった彼女の足が、ゆるゆると八坂家の前の緩い坂道をのぼり始める。 柊平は、地面に伏したまま、自分の手を見た。 一緒に地面に引き倒された撫で斬りが、あの青く淡い光を遮っている。 そして、八坂家を守るように広がっていた光は、みるみるうちに椿の木の根元に収縮し始めた。 「大枝を斬れ。」 ごく近くから、その一言だけが聞こえた。 「柊平、あれだよ。あの糸の出てた枝。」 「夜魅。」 椿の木の少女に引き倒されたことに唖然としていた柊平の顔の横で、華奢な黒猫が椿の木を見上げている。 柊平は半身を起こすと、低い姿勢から手首をかえし、振り上げるように頭の上の枝を斬り落とした。 それは、八坂家の玄関にかかっていた、あの青く淡い光の糸の元になっていた枝。 その枝はゆっくりと地面に落ち、その衝撃で一度跳ねると、真っ赤な花をひとつ咲かせて門扉の袂に転がった。 振り返ると、あの銀髪の大きな影も、坂道にいた椿の木の少女も消えていた。
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