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「柊平さん。」
悠真とコマが、道の中ほどに落ちた提灯を拾って差し出す。
柊平は撫で斬りを収めると、そっとそれを受け取った。
「柊平。」
足元の夜魅が、斬り落とした椿の枝を目線で示す。
「ずっと一緒よ。」
斬り落とされて咲いた花が、小さな小さな声で何度も言う。
しかし、見ているうちに、それはだんだん風に流されるように消えていった。
「悠真。」
「こちらは問題ありませんよ。」
少し難しい顔をして呼び掛けてきた柊平に、悠真は力強く答える。
柊平が引き倒される寸前、悠真の頭に直接響くように聞こえた声。
そして、それから間もなく、倒れた体制から柊平は枝を切り落とした。
途切れた青く淡い光。
それが消える前の一瞬に、悠真は仮染めに椿の木の姿を写した。
生成色だった手拭いが、椿の花のような赤い色に染まっている。
この手拭いを、この土地に新しい建物が立つまで留めておけば問題ない。
「そうか。ありがとう。」
「いえ。」
悠真はゆるく首をふった。
「夜魅。椿の木は…。」
答えは分かっていたが、訊かずにはいられなかった。
「実体を持ったまま百鬼夜行路は通れないよ。 」
夜魅は、初めて柊平に説明した時と同じように、しかしゆっくりとそう言った。
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