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窓を叩く風の音に目が覚めたのは、夕方近くのことだった。 起き抜けのジャージのまま、店の入口に架かった短いコンクリートの橋に出る。 数軒先のはす向かい。 八坂家の椿の木は、家の取り壊しのために取り払われていた。 「事故もケガ人もなかったよ。」 通りを渡ってきた夜魅が、柊平の足元をすり抜けて店に入っていく。 「一日中見てたのか?」 店に入ってガラガラと戸を閉めると、西陽の差す土間に濃い影が落ちる。 「暇だったからね。」 そっけない、へそ曲がりな返事。 いつも通りのそれに、柊平は少しホッとしたように笑う。 「何笑ってんのさ。」 「いや、何でもない。」 妖怪というのは、どうにもよく分からない存在だが、とりあえずはいつも通りの姿に安心する。 今回のことだって、一人では解決しなかった。 夜魅がいて、悠真とコマがいて。 自分の力不足は、どうしたって悔しい。 それでも皆のおかげで得られたこれは、今の自分には最良の結果だろう。 少し開けられたままの四畳半の雪見障子から、中庭の華奢な紅葉の木が見える。 その木のごく近く。 丁寧に植えられた小さな椿の枝が、降り始めた名残雪に、よく映えていた。
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