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「撫で斬りが、勝手に?」 雷獣が空へ帰った日、飾り組紐の切れた撫で斬りを前に、柊平は夜魅に雷獣を打った時の違和感を話した。 昨夜降った雪は一夜限りで、雪見障子の向こうの雪は、昼過ぎには氷になりはじめていた。 それを眺めることもなく、柊平と夜魅は真面目な顔で向き合う。 「なあ、夜魅。あの刀には、何もいないのか?」 刀が意思を持っているように感じる。 柊平の口から出たのは、少し前なら考えもしなかったことだ。 力のある"物"に魂が宿るのなら、撫で斬りこそただの刀というのは不自然ではないのか。 柊平の言葉に、夜魅は少し考えて口をひらいた。 「あの刀は"物"だけど、鏡子やコマとはちょっと違うのは分かる?」 柊平は小さく頷く。 「なら1度壮大朗と話してみるといいよ。残念ながらボクにはそのことに関しては記憶がないんだ。」 記憶がない? 猫又って、経年で化けるんじゃなかったか? 柊平は訝しげにその話に耳を傾ける。 「ただ、昨日、紐が切れるのは分かったよ。」 「わかった?」 夜魅はすぅっと本来の姿になり、二本の尻尾をゆらゆらさせながら、飾り組紐の切れ目に鼻を近づける。 「負荷がかかりすぎたんだよ。」 紅い組紐は、柊平が刀身と鞘を固定するために結んだ結び目の脇で切れていた。 「負荷?強く結び過ぎたのか?」 同じところを見て柊平は首をかしげる。 「そういうのとはちょっと違うやつだよ。」 手のひらに残る、自分ではない"何かの力"の微かな感触。 「なぁ、夜魅。鏡子は何か知らないかな。」 壮大朗は病室でも飄々としているが、一応は入院患者だし、出来るなら長話はさせたくない。 予備知識でもあれば、話は短くて済むかもしれない。 「同じような紐くらいなら持ってるんじゃない?」 ふと思い付いたように言う夜魅の言葉に、西の離の大きな棚を思い出す。 「この紐はもう使えないのか? 」 「少なくとも、ボクにも柊平にも編み直しできないでしょ。同時代のものなら、同じように使えるかもしれないって話だよ。期待はしないで。」 編み直しも何も、そもそもどうやって編んであるのかさえわからない。 そんなわけで、柊平が万全になるのを待って、鏡子に会いに行くことにしたのだった。
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