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柊平は、羊羹のふたをペリペリめくる。 ひとつは夜魅の前に、もうひとつは小さなスプーンと一緒に鏡子に渡した。 全員が中庭の方を向くような形で、半円形に座っている。 鏡子が、すぃっと手のひらを横にふると、雪見障子が左右に開いた。 あの日以降雪は降ることはないが、冷えた空気で乾いた庭が見える。 百鬼夜行路の入り口のある池も、昼間は穏やかに陽光を揺らすのみだ。 「それで、何の用なの。」 羊羹をちびちびと掬って食べながら、鏡子は可愛らしい声で興味なさそうに訊く。 「撫で斬りの紐が切れただろ?あれの変わりになるようなやつ持ってないか?」 「あの刀が特別なのは、もう分かっているでしょう?そうそう変わりになるものなんてないわ。」 柊平は夜魅と顔を見合わせる。 「同時代のものは?」 口のまわりについた羊羮を舐めながら、夜魅は離れの壁棚を見上げる。 「あるわよ。でも、そういう問題じゃないでしょ?」 「やっぱりダメ?」 「ダメよ。」 言い合う夜魅と鏡子を見比べながら、柊平は首をかしげる。 「何がダメなんだ?」 夜魅はため息をひとつつくと、ゆっくりと話はじめた。 「撫で斬りは刀身だけじゃなくて、刀装も特別で、人間の力や経年で、下緒が切れたりはしないはずなんだよね。もちろん、そんじょそこらの妖怪にだってムリ。」 「こないだの雷獣もか?」 夜魅は頷く。 「だから、撫で斬りの力と柊平の力のバランスがとれていないんじゃないかと思うんだ。だから、新しい紐をつけても普通のものじゃ役に立たないかもしれないって話。」 「なら、紐はもう無しでいくしかないのか?」 「それはダメよ。」 柊平の言葉に被る勢いで鏡子が言う。 「力の強い道具は、その姿であることで成り立っていることが多いの。」 「長年保ってきた姿を崩すのは、あまり良くないとボクも思う。元主の壮大朗なら、何か名案があるかもしれないんだよね。」 鏡子の言葉をうけて夜魅が続ける。 やはり、壮大朗に頼る他はなさそうだった。
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