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翌日、柊平は学校帰りに壮大朗の入院している病院を訪れていた。 まだ日の短い冬場。 病室の窓から低い影が落ちる。 「ふむ。そんなことがのぅ。」 柊平の話を聞いた壮大朗が、真っ白のあごひげを撫でながら思案気につぶやく。 「じいちゃん、二人はああいったけど、あの紐はそんなに重要?」 「そうさなぁ。柊平、タヌキのときにした依代の話を覚えとるか?」 「悪さをした妖怪を閉じ込めておくっていう?」 「そうじゃ。悪さをさしたとは限らん。力が強すぎ、周りに影響を与えてしまうものを封じておく場合もある。」 それは、タヌキの焼き物から出られなくなった、小さなタヌキの妖怪が相談に来た時の話だった。 あの時は、タヌキの焼き物自体が持ち主の思い出の品で、力の弱いタヌキの妖怪が出られなくなっていた。 「じゃあ、撫で斬りには、何かを封じてある?」 柊平は、窺うように訊く。 「百鬼が、鬼を斬った一族の末裔と言われとるのは知っとるな?」 一族には真偽を疑う者も多いが、柊平は黙って頷く。 「鬼と言うても色々おる。古い話じゃ。妖怪すべてをそう呼んでおった可能性もある。」 「そのうちのどれかを刀に封じた?」 「百鬼とて人じゃからな。力が及ばぬこともあろう。」 柊平は、初めて刀を受け継いだ時と同じくらい眉間にシワが寄っている。 夜魅と鏡子は、柊平と撫で斬りの力のバランスがとれていないと言っていた。 しかし、ご先祖様すら封じるしかなかった"何か"を相手に、ひよっこの自分がそのバランスをとるのは可能だろうか。 「北の建物に、漆の箱があるのを見たことはあるかの?」 難しい顔をする柊平に、壮大朗が穏やかに言う。 「箱はたくさんあるよ。」 北棟は、撫で斬りと小さな窓、火種と提灯の入った桐の箱。 いつも薄暗いので、すべてを見て歩いたわけではないが、他にも大小の箱がいくつか置いてあるのは知っている。 「朱塗りに金の月が浮いている箱じゃ。すぐにわかるじゃろう。」 「その箱がどうしたの?」 「その中に、組紐が入っておるはずじゃ。それが使えるかどうかは分からんが、一度開けてみんか。夜魅の首に巻いている組紐と同じ作り手が編んだものじゃ。」 柊平は少し思案の様子を見せたが、静かに頷いた。 「姿を違えれば、封じ込めた時の条件を違えてしまうことがある。夜魅達が言っているのはそのことじゃろう。」 「分かったよ。探してみる。」
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