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「え。あの木、伐るの?」 こたつの上に梅饅頭をぽろぽろこぼしながら、夜魅が聞き返す。 中の白餡も回りの皮も、猫の口では食べにくいらしい。 「そう言ってた。でも、あの木…。」 柊平は梅の花の形をした饅頭を眺めながら、言葉をきる。 梅花亭の梅饅頭は、梅の味がするわけではない。 屋号をイメージした形の洋風饅頭だ。 「女の子がいたでしょ?」 散らかした白餡と焼き皮を集めながら、夜魅が事も無げに言う。 「いた。」 「あーゆー木は、下手に傷付けると命をとられることがあるんだよね。」 「物騒なこと言うなよ。」 柊平の反応に、ふふふと夜魅は笑う。 「奪う側と奪われる側、どちらが強いか…だよ。」 「たぶん木を伐るのは家人じゃないだろ。関係ない誰かってことか?」 「そうなるのかな?」 どうでもよさそうに夜魅は答えた。 柊平は梅饅頭をかじりながら、何やら思案している。 「なぁ。」 「ダメだよ。」 饅頭を飲み込んで口を開いた柊平の言葉を、夜魅は被せぎみに遮る。 「まだ何も言ってないだろ。」 「なんとかならないかって話でしょ?」 図星なので、柊平は黙って頷く。 「彼女は、今のままじゃ百鬼夜行路は通れないよ。」 今まで会ったのは、小さな花たちの小さな獣姿の妖怪だった。 しかし、今回は年を重ねた古木。 いるのは少女の姿をした、あれはおそらく、木そのもの。 年月の流れで姿を持ったのだろう。 ただ、柊平の目に見えて、他の人には見えないということは、少なからず妖怪と近い存在だ。 「そもそも、柊平だって今のまま撫で斬りを扱える?百鬼夜行路、開ける?」 不服そうな柊平に、夜魅が畳み掛ける。 確かに、夜魅が言うとおりだ。 木が伐られるには、まだ時間があるだろう。 柊平は新しく茶を淹れて気を取り直し、今日、壮大朗に聞いたことを夜魅に話すことにした。
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