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地獄橋の欄干に腰掛け、梨沙は殺しに来る者を待った。
その傍らに立つ半壊した咲と共に。
巌鬼が消滅して人の行き来が戻り始めた地獄橋は、梨沙達が起こした数多の失踪事件により、再び恐れられるようになっていた。
普通の者はここへは来ない。
だからこそ、梨沙はここを選んだ。
今は誰にも会いたくない。
会えば悪戯に殺してしまうだろう。
ただ一人の者を除いて。
「お姉ちゃん、ゾウちゃん殺した奴って、どんな奴だろうね。男? 女? はたまた子供? 何でもいいや。向こうは銃を持ってるらしいから、目が合ったら速攻仕掛けるね。嫌な記憶、全部引きずり出して冥府に送ろう。残った死体はさ、両目ともくり抜いて踏みつけてやるから。出来れば引きずり込まれる前に見せつけてやりたいな。その時はお姉ちゃんも手伝ってね」
梨沙は一方的に咲に話し掛ける。
それに対し咲は何も反応せず、ただ虚ろに梨沙を見るだけだ。
「ふふ、お姉ちゃん、暫くの間我慢しててね。私が必ず元に戻してあげるからさ」
梨沙は不完全な咲を哀れんでいた。
生ける屍も同然の崩れ掛かった咲を見て。
いつもその思いが胸に染みついて離れる事は無かった。
「お姉ちゃん見て。やっぱり来たよ。私に殺されに」
梨沙は欄干から飛び降りてその者を見た。
地獄橋に現れた一人の男を。
長めの髪に線の細い体。
背はすらりと高く、目鼻立ちの整った綺麗な顔立ち。
優しそうな風貌で殺しに来たとは思えない涼やかな風をまといながら。
梨沙は一瞬見惚れてしまった。
仇である事を忘れ、殺しに来た者である事も忘れ。
「やあ。僕の名は神代。君を救いに来たよ」
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