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青い約束
ばあちゃんにバラを観に行こうと誘われたのは、例年より十日ほど早い、五月の半ばのことだった。
大学入学と同時に、吉祥寺の実家を出て一年が経つ。待ち合わせ場所は、実家からバスで三十分の距離にあるJ植物公園だ。バラ園が見渡せるテラス席に着くと、とうの昔に腰掛けていた、といった様子のばあちゃんが、オレの顔を見て不機嫌そうにつぶやいた。
「遅い」
ゆるくパーマをかけた白髪、銀の丸縁メガネ、菫色のカーディガン。オレが目にするばあちゃんは、子供のころから驚くほど変わらない。けれど、その姿が去年よりひと回りほど小さくなっていることに気づき、胸の奥がしんとする。
「おう、ひとり暮らしは慣れたか、樹」
上品な老婦人然とした外見に反して、田舎訛りと老人独特のイントネーションが混じりあったばあちゃんの言葉遣いは、粗野である。
「それ、会うたびに言うけどさ、大丈夫だってば。もう一年経つんだよ?」
J植物公園では、毎年、この季節にバラ展が催されている。今年も例に漏れず、園内には狂ったようにバラが咲き乱れていた。
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