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早耶は、私と高谷の関係を知っていて、私が亜希のことを嫌っていることも知っていた。
彼女は自分に害がなければ、当たり障りのない程度に誰とでも友人関係を築けるところがあるから、亜希ともそれなりに仲良くしているのは知っていたが、高谷がというのは衝撃だった。
「ね、なんなんですかね」
私の気持ちをまったく察してなさそうにそう言って首を傾げる。
「いや、ないでしょ。私と付き合いたいって言ってて、亜希を誘って、私にそれが伝わらないと思ってるのかな」
この苛立ちが理不尽であることは分かっていた。
私は、彼とは今のところ付き合えない。和哉の存在を隠してはいるが、納得させるだけのもっともらしい理由を添えて彼にも伝えているのだから。それでも。
「あはっ、分かりますよ、その気持ち。嫉妬とは違うんですよね。でも腹立ちますよね」
私の苛立ちが伝わったようで、軽く笑いながら早耶は言った。
同じように苛立って、調子が合ってしまうやつじゃなくて良かったと思っていた。私だって、ここで愚痴に愚痴を重ねるような陰険な飲み方はしたくなかった。
「なんだ。この半年、曖昧な関係続けて、それでもアタックし続けてくれてるのにほだされかけてたのに」
嘘ではなかった。
はじめは軽い気持ちならその内諦めるだろうと思ってもいたのだが、意外と一途に私にアプローチを掛けてきていた。今まで正直、男運のなかった私には、勿体ないくらい実直に仕事をしていた高谷を知っている。愚痴は漏らしていても、その堅実さは見ていれば分かった。だから本当は、そろそろちゃんと高谷と向き合うのもいいかもしれないと、どこかで思い始めていたのだった。踏み出すほどのものでもないけれど、どこかでほんの少しだけ。でも。
「やっぱないな。あっちがいいならあっち行けば、とかじゃなくて、本当に好きな女が嫌がることをする理由が分かんない」
「男って馬鹿なんですかね」
「あいつは馬鹿じゃないと思ってたから、好きだったのになぁ」
「友達以上、恋人未満ってやつですね」
「申し訳ない話だけどねぇ。まぁ、単純って意味では馬鹿だったけど、そこは可愛かったのに、この頭の悪さはあたしはダメだわ」
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