7人が本棚に入れています
本棚に追加
人が何かをやるのに、遅いなんてことは体力面以外で言えばほとんどないと思っていたからだった。恋をするのも、やりたい仕事をやるにも、新しい何かを学ぶことだってそう。そんな中で20代の内になにをしたって、それはきっと人生経験の一つとなって私を作り上げると思っている。いつかの私が、その時に胸を張れる生き方ができていれば問題ないのだ。そのいつかが、やっぱりやってきたのが今だった。
数か月前に、流れでつい高谷とキスをした。そのまま断ることもせずに、彼を受け入れたことがあった。気さくで、飲んで騒ぐのが好きな彼だが、意外と真面目なところが気に入っていた。会話も彼とはよく弾む。彼があわよくば私を狙っているのも知っていた。けれど、胸にずっと残るものがある私は、付き合うことを了承することがどうしてもできなかった。1年前の彼とも、それが理由で別れていたのに。
家に帰ると、自分で蒔いた種のことばかりを考えていた。ぞんざいにはしたくないのだ。気の合う大切な友人だからこそ、真剣に向き合いたい。和哉さえいなければ、迷わず選ぶことだってできたと思う相手だからこそ、どうしたらいいのか分からなくなっていた。すべて、今更。
それでも、この曖昧な関係が彼を遠ざけることになったとしたら、それは受け入れなければいけないと自分に言い聞かせていた。
“昨日はごめん。全然連絡見てなかった。”
翌日の朝、仕事の始まるギリギリに返信をした。
こんなもの、なくなればいいのに。たまにそんな衝動に駆られる。携帯電話なんてまだなくて、手紙でやり取りをしていた時代。送ったら返事は何週間、何ヶ月と待たなければいけなかった。そもそも、返事を期待するものでもなかったんじゃないかと思う。なのに、今は携帯の普及とともにSNSがどんどん普及して、返信どころか読んだかどうかさえも相手に伝わるようになった。そんなくだらない機能を付けた企業を、恨みたくなるほどだ。
私は、どうして“昨日はごめん”なんて言わなければならないのだろう、と疑問にさえ思った。すぐに連絡が取れて当たり前、なんて道理は私の中にはないのに。したり顔で浸透するルールに則ってしまっている自分が、滑稽に映った。
案の定、彼からの返信は、昼休みを待たずに来ていた。
最初のコメントを投稿しよう!