地下鉄列車

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夜10時。 都内とはいえ、普段ならこんな時間に地下鉄に乗っている人間なんて、こんなにはいないだろう。 けれども今日は5月の金曜日。 車内には顔を赤くしたスーツのおじさん達や、きっと周りが見えていない大声で話す若者たちがたくさんいる。 かくいう私も、今日は大学のサークルの新歓帰りで多分少し、頬が赤い。 扉にもたれかかりながら、自分の尖った靴先をぼんやりと見つめていると突然、電車が止まり靴先が視界から大きくブレた。 ざわつく車内に、少ししてアナウンスの声が響く。 どうやらここから2駅先で人身事故があったらしい。 近くに立っているサラリーマンが舌打ちをした。 目の前の制服を着た女の子が明らかに顔をしかめ苛立った表情をした。 車内の此処彼処でため息と、文句が次々生まれた。 私は、そんな人達を見て馬鹿な奴らだと思った。 どこに行ってもそうだ。 2ヶ月前まで通っていた高校も、朝のラッシュも、人気ある喫茶店の2階席も、まだたった2ヶ月すら通っていない大学の教室も、夜の地下鉄も。 すべてが、馬鹿馬鹿しくて、息苦しい。 でも1番馬鹿だと思うのは、周りの人間を馬鹿と認知しその世界に溶け込めずにいる自分だ。 そしてそんな現状に嫌気しかなくなり、何度も周りを消すか、自分を消すかなどということを考えていた。 今日、人身事故を起こした人とはきっと理想は違う。 けれど私も、死ぬなら線路に飛び込んで思いっきり迷惑かけて死んでやろうと思っている。 電車を利用する客どもにも、運行している奴らにも、ここまで自分を育て上げた両親にも。
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