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それを覗き込むような真似はしたくなかったが、どうしても気になってしまい会話だけでもと試みる。
「絵が好きなの?」
「、、、別に。記録用だよ。」
「記録?」
「そう、記録。こんなことがあったっていう、日誌みたいなもん。」
「絵日記でもつけてるの?」
「まぁ、、そんなところかな」
会話の途中でも男の子はボールペンを走らせる手を止めはしない。
「それより、お姉さんは、何がそんなに気にくわないの?」
男の子からの質問は、その内容もタイミングも唐突なものだった。
私は一瞬何を言われたのかすら理解できずにぽかんと口を半開きにしてさらりとした横顔を見つめるしかできなくなった。
「気にくわないって、、、。」
「『何か』が気にくわないんでしょ?線路への飛び込みを計画するなんてさ。」
本当に、訳がわからなかった。
『死ぬなら線路に飛び込んで思いっきり迷惑をかけて死んでやろう』
まさか
見透かされたわけではあるまいと思いつつ、私はその横顔から目が離せない。
「言っておくけど、やめた方がいい。馬鹿馬鹿しいよ。」
男の子はやっぱりこちらを少しも見ずに言葉を続ける。
馬鹿馬鹿しい、なんてわかってる。
「、、、周りに迷惑がかかるから?」
私がやっと口を開いて言葉を投げると男の子はやっと私の顔を見た。
それでもその焦点はいまいち合っていないようで、どうも目は合わない。
「そうじゃない。むしろ、周りに迷惑かけたくて飛び込みなんて考えてるんでしょ。」
きっと今の私はとんでもない間抜け面をしている。
「迷惑かけんのはともかく、僕と出会って話したからには飛び込みなんてしないでよ。」
なんて子だ。
私はなんとも形容しがたい気持ちになり、喉の奥で言葉が靄になったように息を詰まらせかけていた。
男の子はようやく手元のスケッチを完成させたようで、いつの間にかボールペンを持つ手が止まっている。
しばらく、まだ焦点の合わない視線で私の方を見てから男の子は少し大きな息を吐いた。
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