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「こんな若い人向きの色は私にはもう着られないけど、この着物だけは私がもらうね? ”ご褒美”だから。あとは全部あなたの」
そう言った後、何を思ったのか母はクスッと笑った。
「お宮参りの一つ身はあなたが着たのがあるから安心して。予定日はいつ?」
「えっ? なんで」
「なんでわかったかって? 母親だもの。わからないわけないでしょ。今、どれぐらい? つわりは?」
「3か月。食べ物の匂いが全部ダメ」
「じゃあ、お食事会なんて無理じゃない。早く言いなさいよ」
テキパキと着物を片付ける母の背中を見ながら、私は身体を縮こまらせた。
「ごめんなさい」
「え?」
私の呟きはよく聞き取れなかったようだ。
振り向いた母は怪訝な顔をしていた。
「ごめんなさい。なかなか言い出せなくて」
結婚してまだ1か月なのに妊娠3か月ってことは、婚前交渉していたってことで……。
恥ずかしさと申し訳なさで俯いた私の肩に、母の温かい手が置かれた。
「おめでとう! おめでたいことじゃない! 自分の身体を大事にするのよ? おなかの赤ちゃんを守ってあげられるのはあなただけなんだから」
「うん」
ようやく喜びと安堵が胸に広がってきた。
「真央も”お母さん”かぁ」
感慨深げに母が呟く。
私もお母さんやおばあちゃんのような”お母さん”になりたいな。なれるかな?
そんな心の声が聞こえたかのように、母は私を見て頷いた。
「大丈夫。きっと素敵なお母さんになれるよ」
END
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