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「そうだったのか。誠司さんは優しいのにゃ~」
嬉しそうに言う八城はきっと、好意を寄せられているとは思っていないんだろうな。
そう考えると、何だか誠司さんが不憫に思えてきた。
「でさ、俺はこのまま家の中に入るけど?」
ぴたりと足を止めた先は家の前。このまま人間の姿の八城と一緒に入る訳にはいかない。
「今日は新と入るにゃ」
「は?」
八城の言葉の意味が分からず声を漏らすと、ポンッと猫の姿になる。
ぴょんと肩の上に乗れば「鞄は頼んだ」と、足元に転がるのは彼女の鞄。
「いやいや……。鞄をふたつも持っていたら怪しい――」
そこに突然開いた扉。
勢いよく出て来たのは妹の柚だった。
「お兄ちゃんっ!」
その勢いのよさに、ビクッと体が跳ねる。
柚は最初こそ切羽詰まった表情をしていたが、俺の姿を見た途端、飛び付いてきた。
「猫ちゃん、いた~」
抱き付いて、高い位置にいる八城に手を伸ばす。
八城はするりと降り、柚の手の中に収まった。
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