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木々達は人の目を隠し、更に社務所の裏となった現場は、行為に及ぶには恰好の場だった。
神社内で殺人を犯した奴は何とも罰当たりだが、幸いに毎日ここにやって来る俺は熱心な参拝者であり、不審者として映ることはなかった。
日も沈み掛け木の影で暗くなる場所にしゃがみ、手にしていた花束を置く。
静かに目を閉じ手を合わせて、心の中でほのかに喋り掛ける。
ほのか……。今日はほのかの好きな花を買って来たよ。
俺は花の種類が分からないけど、気に入ってくれたかな?
そうだ。今日は授業中に寝てしまって、木島に教科書で叩かれてしまったよ。
何気ないことを語って、彼女を思い出して微笑む。
ひと通り喋り終わってから、そっと瞼を開いた。
――時たま訪れる、虚しさ。
ほのかが生きていれば、楽しいことも悲しみも、これからもっと共有出来たのに。
ぐっと感情を押し込めると、ふっと笑顔を作った。
また明日も来るね。
立ち上がってほのかに背を向ける。
じゃり。大きな玉砂利が音を鳴らした時、がさりと、花を纏めるシートが音を立てた。
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