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唐突さに驚いたが、すぐにおいと声を出す。
「だから抱き付くなって」
「――ボク。やっぱり新が好きにゃ」
優しく囁くような声色。その後更に、背中に回された腕に力が篭る。
「……とりあえず、離れないか?」
やんわり言って両肩を押すが、離れる気配は全くない。
あのさ……? 抱き付かれる度に当たってるんだって。
それ、破壊力あるって言う自覚、ある?
緩い力で押していてもダメだ。朝になったし、今の姿の八城を見られちゃマズいと思った俺は、無理やり引き剥がすことにした。
肩を掴んだ手に力を込める。その時だった。
ドンドンッ!
「お兄ちゃん!」
名前を呼ぶと同時に開く扉。その勢いさももちろん、部屋に突入して来た柚に驚きを隠せない。
「うおおっ!?」
肩が派手に跳ね上がり、体は固まってしまう。
八城に抱き付かれたままだけど!? だが体を包んでいた温もりは、気付けばなくなっていた。
「にゃあ」
「リリちゃ~ん」
柚は足元に擦り付いてきた白猫を抱き上げ、嬉しそうに微笑む。
「昨日は帰ってこなかったから心配したんだよ」
よしよしと頭を撫でると、まだ鼓動がバクバクしている俺に顔を向けた。
「お兄ちゃんばっかり独り占めして、ズルい~」
「あ、あぁ……悪いな……」
回らない頭で思い付いたことを口にすると、柚はずいっと八城を顔の前に出してきた。
「おはよう、お兄ちゃん。私はリリだよ」
まるで八城が挨拶したように、声色を少し高くして柚が言った。
それにドキドキは治まり、変わりにぷっと笑う。
前に名前で呼ばなかったから、柚なりに呼ばせようとしているんだろうなと思った。
八城の頭を撫でて微笑む。
「おはよう、リリ」
そう言えば、天色の瞳が照れたように目が細められた。
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