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「おい周平。その辺にしとけ」
やって来た啓介が周平の手を止めれば、ようやく解放される。
ごほっと息を整えると、殺す気かと軽く睨んでやった。
「だって啓介! 見たさっきの!? あのぽよぽよしたおぱ、おぱがぁぁ」
何とも悲愴な表情をして、わなわな震え出す周平。
そんな彼を見てため息を付けば、啓介は眼鏡のグリップを押し上げた。
「あんなの、ただの脂肪の塊だ」
「ロマンがないぃぃぃ!」
あー! と頭を抱えて叫び出す周平。
俺はふたりのやり取りを見て、ぷっと吹き出した。
「それより八城は、新のことを捜していたとか言っていたが? 本当に知らない女なのか?」
「知らないよ。あれだけ特徴的な目をしているから、会ったことがあるなら忘れる訳ないと思うし……」
「それはそうだよな……」
ふむと考え込む啓介。
ひとしきり叫んだ周平が俺の名を呼んだ。
「何だ?」
「抱かれてくれ」
「――はっ?」
余りに唐突――いや意味の分からない言葉に、間抜けな声が出る。
周平は真剣な顔をしながら、静かに口を開いた。
「関節キスならぬ、関節ハグだ。お前をハグして八城の感触を俺にも」
「止めろ」
抱き付こうとする周平の顔を押し退けていると、ガタリと椅子が引く音が聞こえた。
ふとそちらに目をやると、八城が立ち上がってこちらを見ていた。
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