39人が本棚に入れています
本棚に追加
「ほら帰るぞ。起きろ新」
子泣き爺と化す周平。机に顔が密着し、息苦しくなってきた。
「周平……。下りてくれ」
「帰ると言ってくれたらな」
何処か意地悪く笑う周平を引き剥がしてくれたのは、やはり啓介だった。
「周平。今日は何とかちゃんのグラビア集の発売日だろ?」
その言葉は効果覿面(てきめん)だ。
ガバッと上体を跳ね起こすと、あわあわと慌てた表情になる。
「うおっ!? 今日は16日か! こうしちゃおれん! 売り切れになる前に俺は行くぞっ!」
机の上の鞄をひったくると同時に、教室から飛び出して行く周平。
「本屋で待ってるから、来てくれよぉぉ」
その声はもう遠くにあり、嵐のように走り去って行った。
「16日は来週なのにな……。チョロイ」
ふっと笑う啓介。グリップを押し上げる彼の眼鏡が、キランと光ったのが見えた。
「助かったよ」
顔を上げた俺はお礼を言って、首を鳴らす。
「どうせ周平は頭になかっただろうが、これから八城の話を聞くんだろ?」
朝のやり取りをしっかり覚えていた啓介は、確かめるように訊いてきた。
それにあぁと答えれば、じゃあ明日こそは周平と帰ってやってくれよと言葉が返ってきた。
「……新。八城には気を付けろよ」
「え……?」
すぐに聞き返したが、啓介は明日なと教室から出て行く。
何のことだったのだろう? と疑問に思ったが、とりあえず八城が解放される時を待つことにした。
最初のコメントを投稿しよう!