不穏な視線

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 会話は止まってしまったが、八城はずっと嬉しそうにるんるんと歩いている。  それがとても気になったので、何かあったのか? と訊ねた。 「ここに来る前はとっても不安だったけど、今はロゼのことを忘れてしまいそうなくらい楽しいのにゃ。でもそれは、新と出会えたから。新がボクのことを考えてくれているからで、本当に嬉しいのにゃ」  にこりと笑う彼女は、本当に心から笑っていて。  ――不覚にも目が離せなかった。 「楽しいのは何よりだけど、本来の目的を忘れたらダメだろ?」 「まぁそうなんだけどにゃ。でもやっと地盤を固められたから、そろそろ動き出さなきゃな~」  笑っていた表情は消え、少し曇ったものになる。  でもじっと俺を見つめると、ぎゅっと手を握ってきた。 「新、力を貸して欲しいって言う、ボクの頼みは考えてくれたかにゃ?」  そう言われハッとした。  正直、八城が次々に持ち込んでくる問題ばかりに悩まされていて、そのことはすっかり頭から消えていた。  あ……と困った表情を浮かばせていると、八城は突然手を離した。 「……近くにロゼがいるにゃ」
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