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そう呟いたかと思えば、また俺の手を掴んで走り出した。
「お、おいっ!」
話し掛けても手が離れることも、走りが止まることもない。
引っ張れるまま商店街を抜け、人通りの少ない閑散とした通りに入る。
八城の走りがやっと止まったのは、ひとつの建物の前。
もう誰も人が出入りすることをなくした、廃れたビルだった。
こんな所にロゼが……?
辺りを見渡してもそれらしきものは見えない。
俺には、ロゼが見えるようになったって聞かされていたけど……。やっぱりそれは偶然だったのか?
それならそれでいい。ロゼが見える力なんて、ない方がいいに決まっている。
だが少し湧き上がった安堵の念を掻き消すよう、八城が大きな声を出した。
「屋上だにゃ!」
言われ顔を上げれば、ゆらりと蠢(うごめ)く黒い影が。
どう見ても人間でも動物でもないそれに、目を見開いたままごくりを唾を呑み込んだ。
「あぁ……やっぱり見えるわ」
半ばヤケに呟けば、何を言ってるんだにゃ!? と言われる。
行くにゃと言われて、俺はどうやって? と口を開いた。
ビルの出入口である扉はシャッターが閉められていた。
屋上に行くにしても、このシャッターをどうにかしないと中には入れない。
しかし八城にとっては問題ではないのか――俺の手を握ると、にこりと笑った。
「ボクにしっかり掴まってて」
「え……?」
訳が分からないと眉を寄せた直後、ぐんっと体が上に持っていかれた。
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