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力いっぱい振ろうとしてもそれは敵わない。
広がった蜘蛛の巣がふわりと垂れ、頭から被った。
ねちゃりと粘り気のある巣は全身を絡め、手足が動かなくなる。
くっと顔を顰めていれば、跳び上がっていた蜘蛛がこちらに降り立った。
押し倒される形となり、背中からコンクリートに押し付けられる。
「うっ!」
痛みに声が漏れるが、背中を気にしている暇はない。
胸の上に乗る蜘蛛が、キシキシと音を鳴らしながら顔を近付けてきた。
開いた口から涎(よだれ)が落ちる。
鋭い2本の牙が見え、咬み付こうとしているのは一目瞭然だった。
何とか両手を動かして、蜘蛛の顔を押しのける。
何とも言えない硬い毛の感触が伝わり、それだけでも顔を歪めてしまう。
『新! このロゼの牙には毒がある! 麻痺するだけか、体内から溶かすものかは分からないから、咬まれるなっ!』
「簡単に言ってくれるけど! この巣の糸で、殆ど動かすことが出来ないんだよ!」
毒とかそんなものの云々(うんぬん)前に、咬まれたくないのは当然だ。
けれどもこうやって、押し返しているだけで精一杯。
これ以上のことは出来そうになかった。
そうしている内に、両手の力の限界がくる。
拮抗していた押し合いは負けてきて、蜘蛛の牙はすぐ目前までに迫ってきた。
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