不穏な視線

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 押し倒された時に、俺の手から離れていた細剣。  八城は猫の姿に戻ると、巣の中を掻い潜って、蜘蛛の背中に噛み付いた。 「八城っ!?」  剣の刃に蜘蛛の糸が絡み付いていたが、それ以外被害はなかった。  だから猫になった八城は動けたらしい。  噛み付かれた蜘蛛は痛みに暴れ、八城を振り解こうとする。  しかし彼女は離そうとせず、ロデオのようになっても食らいついていた。  この隙にと、糸を力いっぱい引き千切って巣の中から逃げ出す。  頭の上に付いていた糸を払うと、目の前の蜘蛛の腕がありえない動きをした。  ――人間の腕であっても、あくまで足。  だが下を向いていた腕が上向きになると、8本が一斉に八城を捕まえに伸びたのだ。  それに気付いた八城が慌てて離れようとするが、間に合わず掴まれてしまった。 「離せっ!」  逃れようともがくが、腕はデカイ。  すっぽりと手の中に収められる八城は、抜け出すことが出来ない。  ……どうしたらいい?  八城を助けなきゃと思っても、その手段が思い付かない。  困惑に様子を見つめていれば、八城の苦悶の叫びが上がった。
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