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大きな手が八城を握り潰そうと絞まっていく。
蜘蛛の手は幾重にも八城を覆い、このままだとマズイことは一目瞭然。
「ああああっ!!」
八城の苦しそうな声。ただぐらぐら揺れる瞳で、その光景を見つめるだけ――。
……いや、このままじゃダメだろ……?
八城が……殺されてしまう……。
停止する思考を何とか働かせようと、戦(おのの)く足を叱咤する。
必死な形相で辺りを見渡す。
何か……。何かないのかっ!?
何も思い付かないどころか、やはり頭は真っ白になっていく。
くそっ! 奥歯を強く噛み締めた目の前に、ある物が映った。
――廃れたビルはその中身だけでなく、外観までもボロボロだった。
この屋上を囲む転落防止の柵も例外ではなく、雨風に晒され、メンテナンスのなくなった今、茶色く錆付き崩れそうになっていた。
俺の目は今度、それを捉えて揺れ出す。
だが無意識に駆け出すと、脆くなっている格子(こうし)にそっと手を伸ばした。
掴むと錆の独特な感触と共に、ぼろりと形が崩れる。
先の尖った鉄の棒を握り締めると、今度は蜘蛛に向かって走り出した。
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