不穏な視線

40/42
39人が本棚に入れています
本棚に追加
/204ページ
「事情は分からないにゃ。だけどここから飛び降りて命を絶った人がいる。その思いは死んでも消えることはなくて、ここに残ってしまった……。そして残った魂はロゼに喰われてしまったのにゃ」  悲しげに呟く八城。  説明を聞いて自分の考えが合っていたことに、目を伏せる。  八城は革靴の前にしゃがみ込むと、静かに手を合わせた。  目を閉じ黙祷を捧げる。  そんな彼女の横顔を見ながら、あの夜のこと――ほのかの魂と会ったことを思い出した。  ほのかも何か思いがあって、あの神社に留まっていた。  そこをロゼに見付かり喰われ、悪魔化した。  悪魔化してしまった魂は元に戻らない。  救うには喰ったロゼを倒すことだけ――。  幾ら死んでしまった人とは言え、死んでからも救われないなんて悲し過ぎる。  八城はロゼを倒す為に、この世界にやって来た。  後どれくらいのロゼが残っているのかは分からないが、全て倒されるまでに、こんな悲しい魂は増えて欲しくないと思った。  ――それが同情からなのか、湧き出た責務感からなのか。それは分からない。  ただ最期に見たほのかを思い出していると、俺の中で気持ちの変化があった。 「……なぁ八城」 「何だにゃ?」  まだ黙祷をしていた八城は目を開け、こちらを見る。 「八城の他にも派遣された奴はいるんだから、ロゼはすぐにいなくなるよな?」 「ボクはそう思っているにゃ。……少なくとも1年後には終わる……」  1年後、か。  それだけを聞けば漠然と長い気はするが、実際はあっと言う間に過ぎていくのだろう。  1年……。  その言葉を噛み締めるように心の中で呟くと、右手をグッと握った。 「八城。協力するよ」 「……えっ?」
/204ページ

最初のコメントを投稿しよう!