不穏な視線

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「本当にゃ……?」  そう口にする八城はまだ理解することが出来ないのか、瞬きを忘れた瞳で見つめてくる。 「うん。出来る限りだけどな」  苦笑いを浮かべると、八城の表情が嬉しそうに変わっていった。 「新っ……!」  名前を呼ぶや否や、ダッと走り出す。  勢いそのままに近付いてくると、抱き付いてきた。 「ありがとう! 新、好きなのにゃ!」  ぎゅうと、抱き付く腕に力が篭っていく。  余程嬉しいんだろうけど……。あのさ、惜しげもなく押し付けられてるんだけど……? 「八城、分かったから離れてくれ」  そう言ってやんわり肩を押すが、一向に離れる気配はない。 「八城、聞こえてます?」 「新は優しいのにゃ! リリ、嬉しいにゃ!」  喜びを爆発させながら、胸の中に顔を埋める八城。  ……あぁ、ダメだ、聞こえてないわ。  もう八城を引き剥がすことを諦め、為すがままにされておく。  きっと家では柚がまた、猫ちゃんがいない~! と騒いでいるんだろうなぁと、ぼんやりと思った。
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