不穏な視線

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 ◇ ◇  雲ひとつない澄み切った夜。  ぽっかりと浮かぶ満月は、いつもの夜より輝きを増し、地上を照らしていた。  そんな月に照らされ、屋上を見下ろす男がひとり。  じっと、睨むようにそこで繰り広げられる光景を見つめている。  長い銀髪をひとつで括(くく)り、細い束が風で靡(なび)く。  切れ長の黄色い瞳は不機嫌な色を宿し、しばらくしてチッと舌打ちを鳴らした。  やがてポンッと音が鳴り、そこに立っていたはずの人間は猫の姿となる。 「――リリ。見付けたぞ」  毛の長い茶色いトラ猫がそう呟くと、タンッと飛び立った猫は暗闇に溶けて消えた。
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