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数時間前、私は銃を握っていた。古いコルト。
グリップから伝わる無機質な感じが今まで何人もの命を奪ったのであろうという事実を突きつけて来る。
「撃ちなさい」
そう言われても私には撃てない。
「撃ちなさい!!」
監視官の口調が強くなるが、私には撃てない。銃口の先には60代くらいだろうか。震えているお婆さんが地面に直接正座をして座っている。目隠しをされているから相手にはこちらが見えないが、明らかに死への恐怖と戦っていた。
「最終警告です。撃ちなさい」
そう言われてもトリガーはまったく動こうとしない。私は無表情のまま銃を構えながらも動かない。
私が引き金を引けない理由は人を殺すのが怖いわけでもない。お婆さんが可哀想だからというわけでもない。撃つ理由がないからだ。
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