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定時を過ぎ、化粧直しをしてから先輩の待つ居酒屋へと向かう。緊張からか、最初は会話が弾まなかったものの、先輩はお酒が入ると饒舌になった。
「あのさ、陸上部だった頃の話してもいい?」
何だろう……不思議に思いながらこくりと頷くと、一息置いて先輩が話し始めた。
「3年の頃、俺のことをいつも目で追ってくる後輩がいてさ。でも、俺が振り返ったら必ず目を逸らすんだ。真っ赤な顔でさ。その顔が可愛くて忘れられなかった」
私の気持ちは、とっくに先輩に気付かれていたのだ。
「会いたかったよ、杏ちゃん」
真っ直ぐな瞳で私を捉えながら、整えられた髪の毛を弄る。先輩が照れた時の癖だ。
こんな些細なことさえ覚えてる。
私も会いたかったです、先輩。
真ちゃんへの裏切りになるとわかっていながら、心の中で想いを告げる。
「ありがとうございます」
どうか、赤く染まった頬に気付かないで。胸の高鳴りを隠すように、胸元をぎゅっと握る。
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