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その出来事を母親に話しても、「気のせいでしょ」と言われて終わった。
地震でもない、風でもない、人為的行為でもない。
ではなんだと言われても説明が出来ない事は、母親は気のせいだと言うしかなかったのだろう。
そんな事があった部屋に、東京から帰省した兄は寝泊まりした。
1日目、兄が泊まって朝が来た。
久々に帰ってきた兄に、母親は上機嫌で話しかけた。
「おはよう。よく眠れた?」
しかし、兄の顔は浮かない。
「うーん、なんか嫌な夢みた」
朝なのに、疲れた顔で兄は話した。
「寝てたら、体が動かないんだよ。金縛りみたいだ、と思って目を開けたらタンスに半紙が貼ってあってさ。
『怨』って墨で書いてあるんだ。」
そう言って兄は空中に指で字を書いた。
元々無口な兄が、昨夜を思い出しながら淡々と喋るのは自分が大好きなジャンルの話。
兄には悪いが、ワクワクした。
「えっ!? 何だこれ、って思って部屋を見回したら、部屋中に半紙が貼ってあった。壁も天井も、俺が見える範囲はほとんど」
「それにも何か書いてあったの!?」
我慢できずに俺が聞くと、兄はうん、と言った。
「全部に墨で、『怨』 『呪』 『悲』 『怒』 『死』『 苦』……って。
ベタベタ貼ってあって怖いなぁ……って思って……寝た」
「……えー……」
最後の呆気ない話の終わりに、心底がっかりして、不満の声が自分から出た。
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