兄の帰省

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 2日目の朝。  前日の事があったから、母親は兄を気遣うように声をかけた。 「おはよう。今日は変な夢見ないで眠れた?」  母親の掛け声に、兄は答えずに質問した。 「……昨日、俺が寝てる時、覗いた?」 「え? 誰も覗いてないと思うけど……?」 「……雨、降ってたよね?」 「昨日は、降らなかったよね?」  母親は私達を見て言って、私も姉もそれに同意した。  それを聞いて、兄は深いため息を吐いた。 「……じゃあ、また夢か……。 ……寝ててさ。廊下から光が入ったのが分かったんだよ。目を開けたら、襖が少し開いてて、そこから廊下の電気の光が入ってたんだ。 閉め忘れたかな? と思ったけど、誰かが覗いてた。 外で雨が降り出した音が聞こえて、父さんか母さんが窓が開いてないか見に来たと思ってた。 でも 覗いてるその目が……赤いんだ。 だんだんその赤い目が光って、流石にこれはやばい、って思った。 気付けばまた金縛りになってて、部屋は前の日みたいにたくさんの文字の紙が貼られてた。 雨の音に、だんだん人の声が混じり始めて、その声がたくさんの人間の読経に変わって、部屋中その怒鳴り声みたいな読経が響いたんだ。 赤い目のやつを見ると、もう居なくなってた。でも、気付いたら自分はたくさんのお坊さんに囲まれてて、全員俺を見ながら怒鳴るようにお経を唱えるんだ」  兄の静かな口調は、逆にその時の不気味さを増長した。 「動かない体を無理にでも動かそうとしながら、『止めてくれ、止めてくれ!』……って目をつぶって必死に願ったんだけど、どんどん読経は大きくなるんだ。 ……で、頭が割れるんじゃないかってぐらいに大音量になったと思ったら……ピタッ……って止まった」  鬼気迫る話し方にどんどん引き込まれて、兄が言葉を途絶えたら、周りの音もピタッと止んだように感じた。
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