その眼に再び灯を

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「シナノのスキルでも駄目だったのか?」 「無理だった。なんか根本的にオイラ達とは違うと言うか。そもそも『傷』とか『損傷』として扱われていないと言うか。」 シナノが保有するスキルは『負傷を治す』というもの。 実際にはもっと複雑で、言葉通りに単純な能力というわけでは無く、ただそれが損傷ならどんな状態でも治す事が出来る。 現在は餅のような姿になっているのが原因か、治癒に時間がかかるが。 だが、そんな強力な治癒能力をもってしても、有栖の損傷には何の効果も無かった。 そして、シナノはそれを『傷では無い』と感じたらしい。 「紛らわしい姿をしているからね、僕は。人と似ているからこそ、傷を負ったように見えるだけだよ。僕のこれは正しくは『故障』だとか『ダメージ』だとか言うべきだ。僕は人間じゃない、機械だからね。」 有栖はそう断じた。 傷を治すシナノの『欠陥的完成品(オルタナティブ)』は『治す』スキルであり、ほぼ機械の身体を持つ自身を『直せ』ないと言ったのだ。 それは、自分が人間であることを否定したことでもある。 「有栖ちゃんよう…そんな悲しいこと、言うなよ。」 マスコットのような可愛らしい声のトーンを悲しげに落として、シナノは言う。 そんなのは、あまりにも悲しいじゃないかと。 「それが僕だよ。僕が人間だと言うなら、それの方がよっぽど可笑しい。こんな身体の人間なんて、存在しないよ。もう数えるほどしか、生身の部分は無いのだから。」 有栖は微笑みを、さっきからの落ち着いた態度を崩さなかった。 それが彼女にとっての『普通』だから。
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