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第01章 悪夢との遭遇
――カサカサ。
頭上から響いた不気味な音。
その正体に気づいた俺は、つばを飲み込んだ。
背中に鉄の棒でも押し当てられたように身体が冷たくなる。
(どうしてこんなにたくさん……。よせ、こっちに来るな!)
息をひそめて念じる。
だがその願いをあざわらうように、やつらが動いた。
――カサカサ。
――――カサカサ。
――――――カサカサカサカサカサ。
悪夢のような光景にぷつぷつと肌が粟立つ。歯の根があわない。
ケータイの灯りに照らされた、石橋の裏。
節のある八本の足をキチキチとたくみに使い、やつらが蠢いていた。
百匹、千匹? 数え切れない。
目を光らせた節足動物の群れ。
――カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ。
黒い波が、耳障りな音を立てて近づいてくる。
俺はあらん限りの力で叫び、やつらに背を向けて駆けだした。
まずい、まずい、まずい。
生存本能が訴えてくる。全力で逃げろと。絶対に捕まってはいけない。
だが次の瞬間――スリップしたバイクのように俺の視界は回転した。
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