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翌日、上野は研究室にて、中田と昨日の愚痴話を話していた。
上野「・・・というわけなんだよ、英美があんなに分からず屋だったとはね・・・」
中田「そうか、それはさぞかし、かわいそうにな・・・」
上野「僕が?」
中田「英美ちゃん」
上野「何故?僕は彼女のことを思って」
中田「彼女のことを?自分のことを、じゃないのかい?」
上野「そりゃあ、彼女に近づく男がいれば、嫉妬もするさ」
中田「じゃなくて、君は彼女を守ろうとしているんじゃなくて、自分の意見を押し通そうとしているだけではないのかい?」
上野「そんなこと、ないよ、ただ、僕は皆が考えていない確率を教えているだけなんだ・・・」
中田「それが、余計なお世話というんだよ」
その時、研究室に乾いた音が二回響いた。
上野「おや?」
中田「誰だろう?」
扉の向こうから、「失礼します」というか細い声が聞こえ、扉が開いた。
二人がまじまじと見ると、入り口の向こうからおぼつかない足取りで、一人の老人が現れた。
その老人はまさに、昨日上野がレストランの前で見たタキシード姿の白髪姿の老人であった。
上野「あ、・・・」
中田「なんだい、知り合いかい?それにしても、いまどき珍しい・・・」
老人は入り口の前でハットを取り、軽く会釈をした。
老人「私が誰だか、わかりますよね?」
上野「いや、お話したことありませんが・・・」
老人「あなたが知らなくても、私はしっかりと見てましたよ」
上野「な、何を?」
老人「あなたは、あまりにも数字に執着しすぎる、これでは、周りの人間の息が詰まりますよ」
中田「随分と、しっかり見てらっしゃったんですねえ・・・」
上野「中田君!」
老人「そこで、一つあなたに試練を与えようと思いましてね」
上野「試練、何で僕がそんなことを!」
老人「あなたは、数字に関してはとても優秀だ、だが、このまま数字にとり憑かれると、あなた自身も身をほろぼしてしまう」
中田「なにか、面白くなってきたなあ」
老人は、カバンの中から、手のひらサイズの、長方形の箱を取り出した。
箱は上部にメーターが設置され、数値は(10000000)を表示していた。
上野「な、何ですか、これ?」
老人「これは、今後一週間、君に降りかかる(偶然)を計測する装置です」
上野は辺りを見回し、口を震わせながら何かを言おうとしていた。
その様子を、中田はニヤつきながら眺めていた。
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