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彼から直接告げられていた訳じゃない。
ただ、そうなのだろうという予感があっただけ。
彼が悪い訳じゃない。
私が悪い訳じゃない。
ただ、重なりあっていた線がズレただけ。
気落ちして重い足取りでなんか歩いてやらない。
泣き喚いて惨めな姿を曝してなんかやらない。
罵り会って最後を汚したくなんかない。
彼の事は好きだった。
過ごした時間は本物で、本当に想い会って作られた物だから、過去に傷なんかつけたくない。
綺麗事を並べながら足早く時間に追われて先急ぐ人の背中を見送るように立ち止まりかける体を動かす。
なじって、泣き喚いて、恨み事を並べて叫べば私の気は晴れるのだろうか。
そんな意味の無い事を考えては打ち消してきた。
その結果、選んだ別れ様がこれだ。
強がる私を慰めたいのか、暗く重い空から大粒の雨が降り始めた。
多くの人々は私を追い越し駆け出して建物の中へと慌ただしく避難していく。
誰も天を仰ぎ雨に射たれる私など気にも止めない。
この人の流れが今の私には都合良く感じる。
頬を伝うものが雨なのか涙なのか……打ち付けられる雨粒とともに温かなそれを流し続け髪を濡らし、服から染み込む冷たさを心地好いと感じながら大きく一呼吸。
まるで薄汚れた感情を洗い流されているようで、降り頻る雨の中を笑みを浮かべて歩きだす。
慰めの雨は暫く止みそうにない───
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