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玄関口に並べられたパステルカラーのパンプスと履き古したよれよれのスニーカーが私の心臓を貫く。
「あの、な……」
開けた扉を片手で押さえ、もう一方の腕を壁に押し付け私を拒絶するかのようなポーズでくぐもった声を掛けてくる。
遠く離れた田舎から長く想いを通わせた女を前にとるような態度だろうか。
否、これが正しい態度なのだ。
私はただ彼の前に立ったまま眉を下げて微笑んで返す。
「……判ってるよな?」
「うん、判ってる」
「知ってた、よな?」
「うん、知ってたよ」
「ごめん、な?」
「……うん、大丈夫。直接言いたかっただけ」
「うん、そう、だよな……お前ってそういう奴だから」
「ありがと……待っててくれて」
「うん、ごめん」
「うん、さよなら」
半日かけて会いに来て、たったの数分で終わった最後の逢瀬。
このためにここまで来た私はバカなのだろう。
辛そうな、苦しそうな顔で真っ直ぐに見詰めあった目を外すとともに翻した体の後ろで、何事もなかったかのように閉まる扉を見る事もなく、私は来た道を戻る。
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