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目を開けると、真っ白な天井が視界を覆った。白を基調とした無機質な部屋には私だけがいた。暖かい布団にくるまれて、点滴をつけた状態だった。なぜここにいるのか、思い出せなかった。私は起き上がろうとしたが、体が少し動くだけでもあちこちが痛み、とてもじゃないが、起き上がれなかった。病室の扉が開き、一人の老婆が入ってきた。声を出そうにも喉の奥に何かが引っかかり、喋ることもできない。ただじっと老婆の様子を見ていた。すると、老婆は点滴の側にある棚に写真立てを置き、独りごちた。
「そろそろ起きたらどうですか? もう地下鉄事故から二十年も経つんですよ。いつになったらあの日の誕生日を祝えるんですか?」
老婆は棚の上の花瓶を持って、部屋を後にした。私は首だけを動かし、飾られた写真を見た。そこにはウエディングドレスを着て幸せそうに微笑む女性が映っていた。見覚えのない女性だった。それだけでなく、写真立てのガラスに反射して映り込んだ白髪頭でしわくちゃな老人が誰なのかわからず、私は首を傾げた。 (終わり)
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