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静かに唇が重なる。
が、それは、他の女たちの口づけとは違っていた。
女の白い喉が金色に光り始めたかと思うと、何かを男の喉に押し込むように、ごくりと動いた。
すると今度は、男の胸のあたりが光り始めた。
男はすぐに異変に気が付いた。
女を押しのけるようにして体を離し、破れた服を裂いて胸を露わにする。
男の肌の上には、見えない手が線を引いてでもいるように、金色の曲線が走っていた。
そして気がついた。
不思議なことに、体のあちらこちらから流れ出ていた血は止まり、傷口はすっかりふさがっていたのである。
呆然としているうちに、金色の光は徐々に弱くなっていった。
間もなく光は消え、金色だった線は深い赤色に変わった。
そこにはまるでアザのように、赤い花が浮かび上がっていた。
女の頭につけられている花と同じ、赤い花が。
男が顔を上げた時、すでにそこに女の姿はなかった。
辺りには変わらずに深い霧が立ち込め、遠くの方から歌声が響いている。
ふと砂の上を見ると、干からびて、くしゃくしゃになった赤いものが落ちている。
男は、そっと、つまみあげた。
それは女の頭につけられていた、花のように見えた。
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